オーダー紳士製図に「出来上がり線」と「断ち切り線」が混在している理由

    

工業用パターンを経験していると非常に分かりづらいこの問題。どういうあらましでそうなったのかをきちんと説明できる人は意外に少ないです。

・オーダーではなぜ断ち切り線と上がり線が混在するのか?
・なぜ縫い代付きパターンか縫い代無しパターンかに統一出来ないのか?

という点にしぼり既成服とオーダーとの違いも踏まえて説明します。

1図は上がりと断ち切りが混在している状態ですが、実際は縫い代を付けずにこの状態で裁断に入る場合が多いです。

設計の段階で縫い代込みの作図をしており、実際の縫い代分量はカッターとテイラーしか分かりませんが、逆に自分のアトリエや工房で縫製する為、縫い代が無くても理解でき、それが簡略化にもなりました。

カッター・・・接客からパターン、裁断、仮縫い、納品まで担当
テイラー・・・本製品の縫製を担当

 

実際には2図の様に縫い代が存在します。

肩、背脇は断ち切り、アームホール、背中、ネック、ラペル、フロント、裾は上がりです。

※裁ち切り箇所の縫い代は7mm(任意)。

縫い代巾はお店により異なります。また、打ち込みの甘い素材の場合は滑脱の問題もある為太くし、打ち込みが多い素材は細くした方が縫い目を美しく仕上がる事が出来ます。

裾は着丈調整、背中は巾とユトリ調整、ネックはツキ取り補正、アームホールは肩幅、鎌巾、鎌底、イセ調整の為あがりにしておき後で多めに裁断します。

※多めに裁断する部分を縫込み量と言います。
※その他、屈伸、半身、いかり、なで補正も行います。

後中心の地縫い線はチャコでひき、その上を地縫いします。柄合わせの際、縫い代が邪魔になってしまうのとカーブが同じ為、縫い代は付けません。

ラペル、フロントはクセ処理で歪んでしまう為、縫い代を付けず多めに縫込み量を付けておきます。

前返しの際、フロントラペルゲージを使い形を整えます。(既成ではダイカスト式で抜いたり、ゲージを使用し裁ち落としたりします)

フロントはクセ処理や振り回しでフロントがボロける恐れがある為、耳を使う場合が多いです。

裾も熱収縮、緩和収縮、ハイグラ、縫い詰まり等で着丈が変わる為、縫い代はつけずに後で調整します。

裁断する際は3図の外周線(二点鎖線)に挟みを入れます。

補正が入る箇所は多めに裁断し仮縫い後、お客様にご試着頂きながら調整に入ります。

青い点と実線に切り躾をします。

後身の背脇の裁ち切りと前身の背脇の切り躾を合わせて7mmで地縫いします。また、肩も同様に後の肩の裁ち切りと前身の肩の切り躾を合わせて7mmで地縫いします。

この方法ですと縫込み量をつけながらも線の形状が違う前身、後身の肩と背脇を正確に素早く縫うことが出来ます。

これが上がり線と裁ち切り線が混在する理由です。

なぜオーダーは縫い代付きパターンか縫い代無しパターンかに統一出来ないのか?

既成服とオーダーとでは、

既成服・・・個人が合う1着を選ぶ

オーダー・・・個人に合う1着を作る。

の違いがあります。

量産とは違い、一人の為の型紙、素材、縫製、仕様、手法、補正内容になり、その都度縫い代のつけ方もかわってきます。

オーダーでもハンドメイドとマシンメイドでは縫い代の付け方が違ってきます。

マシンメイドの場合は量産工場に投入するケースも増えてきましたし、全て縫い代もつけた状態で投入します。

既成服は教本に関しては可能ですが、誂え品等のオーダーに関しては難しいかもしれません。

お客様により型紙、素材、仕様、補正内容が違い、お店で扱っている縫製、手法が異なり各オーダー店でプライドを持ち特徴を出している為、縫い代付きか無しかの統一は難しいと思われます。

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